訪問歯科について
訪問歯科とは歯科医師や歯科衛生士が通院の難しい高齢者の個人宅や施設、病院等を訪問し歯科診療を行う歯科のことです。高齢化社会における老年層にとって非常に心強い存在になっています。患者の大部分を占めているのは主に高齢者で、かつ彼らの多くは有病者で意思疎通困難者が多いともいわれています。彼らの求めに応じ、継続的かつ計画的に患者の生活の場に訪問して診療、処置、療養指導を行う必要があります。
伺い先は患者が住んでいる住宅以外にも老人ホームなどの居住系施設も含まれます。しかし、通所施設は寝泊まりするところではないので、訪問診療はできません。
厚生労働省のデータでは歯科治療や口腔ケアが必要である高齢者が全体の約60%を占めていることに対して、実際に診療できている割合は全体の2.4%に留まっているというデータを発表しています。この理由の一つとして訪問歯科の存在がまだ一般的に浸透されていないことも関係していると考えられます。また、全国にある歯科診療所のうち約20%は訪問歯科サービスを実施しており、更にその数は近年増加傾向にあり、今後高齢化社会が進むにつれて更なる需要の増加が予想されます。
私たちが歯や口腔内を健康に保つことは食べたり喋ったりすることに喜びを持ち続けるといった生活の質や全身の健康状態に強く影響しています。加齢や病気を患うことによってこれらの質を保つことは段々と患者個人では難しくなっていきます。更には口腔機能の低下を放置してしまうと要介護高齢者における口腔清掃状態の悪化や誤嚥性肺炎の原因にもなりうるため、定期的なチェックが必要です。そのため患者自身が歯科医院への通院が難しくなった場合でも、訪問歯科を利用することで定期検診やメンテナンスを続けることが重要です。
これらの診療を受けることが出来るのは自力での通院が困難な高齢者が主です。要介護高齢者の中には歯を見てもらいたくても体が不自由で通院が出来ない人がたくさんいます。しかし体に障害があったり病気を持っていたり人は自分で口腔ケアが行いにくく、治療が必要な状態に陥りやすいです。またこれらの患者の中で多い訴えとして「食べ物を満足に食べられなくて困っている」というものがあげられます。そのほかにも訪問歯科診療での訪問理由は入れ歯を壊した、歯が抜けてしまった、入れ歯が痛いなど様々です。
診療内容は虫歯や歯周病などの治療や入れ歯の作製・修理、口腔ケアなどに留まらず、摂食・嚥下リハビリテーションも行います。治療は歯科医師が中心となって行いますが、定期的な検診やメンテナンス、予防のための衛生指導は歯科衛生士が中心となって担当し、口腔内の健康を保つための口腔ケアや、食べる・飲み込む力を維持するためのリハビリなどを行います。これらを行うことによって歯の状態が改善されるだけではなく誤嚥性肺炎の予防や食べる楽しみの回復なども目指していきます。またこれらにかかる費用は医療保険や介護保険が適用されます。患者一人当たりの訪問回数は約半数が1か月に1回にあたります。
訪問診療を行うことには歯科医院側と患者側に双方メリットがあります。前者の場合ですとその人の生活を知って治療ができる点が挙げられます。例えば入れ歯を作る場合、直接医療者の食生活を見ることができ、細かい調整を行うことが可能になります。通院困難な方の生活や介護の状況を理解しやすいので、より適した口腔ケアを患者さんに提案することが可能になります。後者の場合はなんといっても歯科医院へ直接出向かずとも自宅等で治療を受けられることです。身体が不自由な状態で歯科医院に行くということは更に身体的・心理的ストレスが大きく負担になります。しかし訪問しながら自宅でリラックスした状態で、歯科医院で受ける場合と同等の治療を受けることができます。更に患者本人や介護者の負担やリスクを減らし、受診機会の損失を防ぐことを望めます。
このように訪問歯科診療とは高齢化社会が進んでいくと言われている日本において非常に注目されるべき項目だと考えられます。高齢の方でも通院せずリハビリをすることによって生活が好転する可能性が大いにあります。そうして高齢者の生きる力を取り戻していくことが出来るようになれば社会的に訪問歯科は「欠かせないもの」になりうるでしょう。